あったかまる

それは一際寒い冬の日のことでした。

黒糖丸部屋の前に、小さな亀の子たわしのようなものが落ちていました。

「どうして、こんなところにたわしが……?」

そう思いながらおか美が近づいてみると、それは亀の子たわしではありませんでした。

そこにいたのは、まだとても小さいビーバーの子どもだったのです。
寒さのせいか体は冷たく、ぐったりとして、今にも動かなくなりそうでした。

おか美は息をのみ、すぐにその子を抱き上げて部屋の中へ運び込みました。

しばらくして、弱っていたビーバーの子どもは、ゆっくりと目を覚ましました。
まん丸な黒い目がきょろきょろと動き、まわりに集まるビーバーたちを不思議そうに見つめています。

「おお、目を覚ました!」

美威薔亞丸が、ほっとしたように声を上げました。

子どもの毛はところどころ凍えて固くなり、手足もまだ細く、力が入らない様子でした。

「こんな寒い日に、ひとりで……」
おか美は胸の奥がきゅっとなるのを感じながら、ゆっくりと背中をなでました。

するとビーバーの子どもは、少し安心したのか大きなお腹の音を鳴らしました。

美威薔亞丸が、その様子を見て言います。
「腹、減ってるのか? ちゃんこ食べるか?」

それを聞いて、おか美は首をかしげました。
「空きっ腹にちゃんこは、さすがに重いんじゃないかしら。」

そう言いながら、おか美は鍋の火を弱め、まずは汁だけを少しすくいました。

その様子を、他のビーバーたちも黙って見守っていました。
ビーバーの子どもは、恐る恐るちゃんこの汁を舐めます。

おか美は、心配そうに尋ねました。
「どう?」

ビーバーの子どもは、 しばらくしてから、ぽつりと言いました。

「……あったかまる」

その言葉に美威薔亞丸はくっと口の端を上げました。

ビーバーの子どもは、 あたたかい汁の器を両前脚で抱えたまま、 目を半分閉じています。

「今日はここで休ませよう」

その一言に、部屋の空気がゆっくりと落ち着いていきました。
ただ、鍋の湯気だけが静かに立ちのぼっていました。

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