あったかまる 2話

あれから数日、小さなビーバーは黒糖丸部屋で少しずつ元気を取り戻していました。
ところが、ある日目が覚めると、小さなビーバーの姿はどこにもありませんでした。

部屋のビーバーたちは総出で近所を探し回りましたが、どこにも見当たりません。
おか美は、あの小さな背中を思い出しては、胸が締め付けられるような思いで毎日を過ごしていました。

そんなある日の晩のこと。
稽古を終えた力士たちが一息ついていると、玄関の方で小さな音がしました。
朝乃葉丸が様子を見に行くと、そこには、小さなビーバーが横たわっていました。

数週間ぶりに戻ってきた小さなビーバーは、泥にまみれ、その小さな体はあちこち傷だらけでした。

寒さに震えながら、荒い息を吐いています。

おか美は素早く立ち上がりました。
「急いで手当てを!」

朝乃葉丸が小さなビーバーを抱えたまま、おか美の後に続きます。
力士たちも、言葉を失い、黙ってその後に続きました。
温かい部屋に運ばれた小さなビーバーは、ひどい傷を負いながらも、どこか遠くの森の方をじっと見つめていました。

おか美は手際よく傷口を洗い、清潔な布を当てていきました。
痛みに小さな体が震えるたび、朝乃葉丸が大きな手で、壊れ物を扱うようにそっと背中を支えます。

部屋の力士たちは、自分たちの稽古の傷などには無頓着ですが、小さなビーバーが痛がる姿を見るたびに、慌てて右往左往していました。

ようやく手当てが終わり、毛布に包まれた小さなビーバーは、おか美の優しい手の温もりに安心したのか、少しずつ呼吸が穏やかになっていきました。

「お前、こんな傷だらけになって、一体どこに行っていたんだ」

美威薔亞丸がぶっきらぼうながらも、震える声で問いかけました。
すると、小さなビーバーは消え入りそうな声で答えました。

「家族を探してるの……」

あの日、寒さで動けなくなる前、小さなビーバーは家族とはぐれてしまったのです。
目が覚めて、黒糖丸部屋のみんなが優しくしてくれればしてくれるほど、小さなビーバーの胸には「本当の家族に会いたい」という寂しさが募っていったのでした。

「ひとりで、ずっと探してたのね……」
おか美は、土や泥で汚れた小さなビーバーの小さな手を取りました。

その手は、冷たい地面を一生懸命掘り起こしたのか、爪が割れて血がにじんでいました。
結局、家族を見つけることはできず、やっとの思いでこの部屋までたどり着いたのです。

「そんな体で無理しやがって」
美威薔亞丸はぶっきらぼうに言いながら、そっと視線をそらしました。

おか美が温かいタオルで泥を拭ってあげていると、小さなビーバーはぽつりぽつりと、あの日あったことを話し始めました。

「すごく大きな雨が降って……川が、真っ黒になって襲ってきたの……」

この冬が来る少し前のこと。
激しい洪水が小さなビーバーの家族が住んでいた家を飲み込み、小さな彼は抗う術もなく、濁流に飲み込まれてしまいました。
気がついたときには、見たこともない遠い場所まで流され、周りには誰もいなくなっていたのです。

「一生懸命歩いたんだけど……どこまで行っても、知ってる場所がなくて……」

冷たい雪の中、あの日流された方向へ必死に逆らって歩こうとしたのでしょう。
でも、小さな足では広すぎる世界に打ちのめされ、結局ボロボロになって戻ってくるしかありませんでした。

「……よく、戻った」
黒糖丸親方の、低く静かな声でした。

「……僕、もうお家に帰れないのかな」

小さなビーバーの目から、大粒の涙がこぼれ落ちました。
その涙は、おか美の手のひらに落ちて、静かに熱を伝えました。
家族と引き裂かれた洪水の記憶が、まだ小さな胸に深い傷を残していたのです。

涙を流し続ける小さな背中をさすりながら、おか美は心に決めました。
家族が見つかるまで、もし見つからなかったとしても、この子がもう二度と冷たい思いをしないように、この部屋で守っていこう、と。

窓の外では相変わらず冷たい風が吹いていましたが、黒糖丸部屋は小さなビーバーを包み込むような優しい熱気に満ちていました。

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